「手を離した状態でも開いたままキープできる本をつくりたい」
「長期保存を目的とした本をつくりたい」
「環境に配慮した冊子をつくりたい」
「ページ数が多いから無線綴じがいいけど、開きが悪いのは気になる」
こんなお悩みはございませんか?
PUR製本では、開きのよい無線綴じ冊子をつくることができます。糊を変えるだけで、開きの良さだけでなく耐久性も向上します。
こちらの記事では、PUR製本の基礎的な知識や一般的な無線綴じとの比較、おすすめの使用例をご紹介します。目的や使用するシーンに適した製本加工をチョイスしましょう。
1.PUR製本とはなにか
1-1 PUR製本とは
PUR系ホットメルトという接着剤を使用した無線綴じ冊子です。
Poly Urethane Reactive(反応性ポリウレタン接着剤)の略称で、頭文字をとって「ピーユーアール」製本と呼びます。
一般的な無線綴じ冊子には、EVA系ホットメルトという接着剤が用いられています。
対してPUR製本は、見た目はよくある無線綴じ冊子とあまり変わりありませんが、開きのよさや耐久性などで優れた性能を持ちます。
写真集や図録など、ページ数が多く見開きで絵柄を見せるような冊子でよく使われています。
1-2 PUR系ホットメルトとは
PUR製本には、PUR系ホットメルトという接着剤が使われていると説明しましたが、あまり聞きなれない名前で少し分かりにくいですよね。
まずは、ホットメルトとは何かについて見ていきましょう。
ホットメルトとは、有機溶剤を一切含まない環境にやさしい接着剤のことです。
常温では固体ですが、それを熱で溶かして接着面に塗布したあと、短時間で冷やし固めることで接着します。ホットメルトの主な6種類について、特長と用途を簡単にご紹介します。
・EVA(エチレン酢酸ビニル)系
安価で速乾性に優れており、さまざまな被着体との相性が良く、汎用性が高いのが特長です。
段ボールの紙製品をはじめ、布製品や木材などに使用されており、最もポピュラーなホットメルト接着剤となります。
・PO(ポリオレフィン)系
PE(ポリエチレン)とPP(ポリプロピレン)との接着性が良いほか、耐熱性が優れているため自動車部品の接着に向いています。
・SR(合成ゴム)系
粘着力が長時間続き、低粘着タイプは再剥離が可能なため、おむつなどの衛生用品に使用されます。
・PA(ポリアミド)系
耐熱性、耐薬品性、絶縁性に優れており、電気電子部品への使用に向いています。
・PES(ポリエステル)系
さまざまな被着体との相性が良く、耐薬品性にも優れており、電気電子部品や自動車部品の接着に使用されます。
・PUR(反応性ポリウレタン)系
耐久性・柔軟性・耐熱性にとても優れており、製本のほか、自動車や建材にも使用されます。
今回詳しくご紹介するのが、こちらのPUR系ホットメルトになります。
1-3 PUR系とEVA系の違い
次に、ホットメルトのなかで最もよく使用されているEVA系ホットメルトと、PUR製本に欠かせないPUR系ホットメルトの違いについてご説明します。
どちらも熱を加えて冷やすことで固まるという点では同じですが、PUR系ホットメルトは、空気中や紙の中の水分と反応することでより強く固まる性質を持っています。
EVA系ホットメルトに比べると、十分に固まるまでに時間はかかるものの、強度が2倍以上もあると言われています。
また耐熱性が高く、EVA系ホットメルトの耐熱性が65℃以下なのに対し、PUR系ホットメルトは耐寒温度マイナス20℃~耐熱温度120℃程度です。
高温な場所に保管する場合、EVA系ホットメルトであれば、糊が溶け出してページが抜け落ちてしまう恐れがありますが、PUR系ホットメルトはその心配がありません。
作業効率を重視するならEVA系ホットメルト、耐久性・柔軟性・耐熱性を求めるならPUR系ホットメルトがおすすめです。
2.PUR製本のメリット・デメリット
2-1 PUR製本のメリット:開きやすい
開きのよさは、PUR製本の大きな特長の1つです。
一般的な無線綴じでは、無理に力を加えるとページが破けてしまうため、見開きページの内側を大きく開くことはできません。
これに対しPUR製本は、この見開きページの内側を大きく開くことができます。
ノド周辺まで絵柄の入ったものでも見やすく、ページ全体を活用することができるため、表現の幅が広がります。
ノド…本を開いたとき、綴じられている内側のこと。
2-2 PUR製本のメリット:耐熱性・耐久性が高い
接着剤の耐熱性能と耐寒性能が高いことにより、幅広い環境下での保管に対応でき、真夏の車内などの温度が高い場所でも固まった状態をキープします。
また、EVA系ホットメルトに比べ強度が2倍以上あるので、何度も繰り返し読まれることを想定した冊子などにおすすめです。
2-3 PUR製本のメリット:環境にやさしい
冊子としての役割を終えた後もPUR製本にはメリットがあります。
高温でも溶け出さないというPUR系ホットメルトは、古紙リサイクルにおいてほぼ100%パルプ(紙の原料)と分離することができるため、不純物の少ない用紙へと生まれ変わります。
また、一般社団法人日本印刷産業連合会の定める「古紙リサイクル適正ランクリスト」のAランクに格付けされており、リサイクル適性の高さが認められています。
2-4 PUR製本のデメリット:製造コストが高い
PUR製本のデメリットは、製造コストが高いことです。これは、EVA系ホットメルトが主流である大きな理由でもあります。
EVA系ホットメルトと比較すると、接着剤が固まるまで時間がかかり、作業効率がよくないことに加え、接着剤の取り扱いの難しいため、対応できる現場が少ないことが、コストがかさむ原因となっているのです。
3.PUR製本のおすすめ使用例と注意点
3-1 PUR製本のおすすめ使用例
PUR製本は耐久性に優れており、繰り返し開閉をする商品カタログや、長期間の保存が想定される記念誌などに適しています。
また、開いた状態をキープするために手や物で押さえる必要がないため、参考書や楽譜、レシピ本といった冊子に目を通しながらノートを取る、楽器を演奏する、料理をするといった別動作と組み合わせる場合に相性がよいです。
写真集や絵画集などでは、からノドまでページ全体を活用することができることから、表現の幅を広げる選択肢としておすすめです。
3-2 PUR製本で気をつけること:制作前準備
対応可能であるか確認する
取り扱いの難しさから、対応している加工現場が限られています。
途中で一般的な無線綴じからPUR製本に変えようとしても、予定していた納期での対応が難しくなることや、依頼する印刷会社の設備次第では対応できない場合があります。対応可否や納期については事前確認が必須です。
束見本をつくる
印刷データを制作して、いざPUR製本の工程へ進む段階で、接着剤と用紙の相性が合わずイメージと違う…ということが起こる場合があります。
このようなトラブルを防ぐには、束見本を作成するのがおすすめです。
使用する用紙やページ数が決まったら、実際の製本時と同じ紙(白紙)でテスト製作することで、印刷データの制作と並行して製本加工や仕上りのイメージに問題がないことを確かめることができます。
スムーズな進行をするために大事なステップですので、ぜひご活用ください。
3-3 PUR製本で気をつけること:印刷データ
PUR製本は開きのよさが売りである製本方法ですが、冊子の強度を保つために接着剤の塗布面積を大きくした場合、そのせいで開きのよくないページが発生する可能性があります。
それは、表2(表紙の裏側)・表3(裏表紙の裏側)とそれぞれの見開きページです。
この部分は「スジ押し」によって開きをよくすることができます。
スジ押し…紙にスジを入れ折り曲げやすくする加工
また、PUR製本はノドもとまで開くため、従来の無線綴じでは隠れていた部分が見えてしまいます。
印刷データに詳しい方は、無線綴じ用にあえて絵柄を左右それぞれの小口側に数ミリずらして見開きのデータを作成されているかもしれません。
PUR製本では絵柄が繋がったデータでないと、ノドもとでダブって崩れてしまうことを覚えておきましょう。
さらには、見開きページの境目に「人物の顔」や「細い線の模様」、「重要な写真・文字」を置くことは極力避けることを推奨します。
ノドもとまで開くとはいえ、紙の厚さ、伸び縮み、ページ数や製本機械の誤差などによって、どうしても多少のズレが発生するためです。
まとめ.製本方法にもこだわりを
PUR製本は、耐久性・耐熱性・柔軟性にとても優れた製本方法です。
開きやすくて長期保存できるだけでなく、リサイクル性が高く環境にやさしいというメリットもあります。
「大切に長期間保管したい記念誌」や「見開きページ全体の絵柄を楽しみたい写真集」、「開いた状態のまま使いたいレシピ本」などを作りたい方におすすめです。
ただし、加工にコストと時間がかかるので、事前の確認は忘れずに行いましょう。
作りたい印刷物にどの製本加工が向いているのかよく分からない…とお悩みの方は、ぜひ当サイト『紙ソムリエ』へご相談ください。