「脱プラスチックで紙製品の利用が進んでいるけど、そもそも紙ってエコなの?」
「少しでも環境に配慮した紙を使いたい」
「SDGsに取り組んで企業のイメージUPを図りたいけど、何ができる?」
印刷業界でSDGsや環境問題への意識が高まるなか、エコのための活動について一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
紙も印刷技術も日々進化しており、印刷におけるエコな取り組みはたくさんあります!
まずは、紙がもたらす環境問題についてご紹介します。そして、わたしたちにできるエコな取り組みを学び、環境に配慮した印刷物を作りましょう。
1.印刷が環境にもたらす影響とは
1-1 紙づくりによって起こる環境問題
【森林伐採】
適切に管理された森林の木材を使用することは問題ありませんが、全世界の森林伐採のうち15~30%が違法に伐採されています。違法伐採で得られた木材は用紙だけでなく、建築資材などにも使われています。
森林破壊が進むと光合成の効果が不十分になり、CO2の排出量が増え、地球温暖化が進んでしまうのです。
【水・エネルギー】
紙の元となるパルプは、薬品を含んだ水で木材を煮込み、漂白・洗浄することで作られます。さらに、そのパルプを水に溶かして薄いシート状にし、乾燥させたものが用紙です。
このように、製造過程において水は不可欠です。そのうえ、水質によって紙質も変わるので上質な紙を作る際にはきれいな水が必要になります。
また、脱水・撹拌・乾燥といったさまざまな工程を経て作られるので、エネルギーも大量に消費されます。
【CO2排出】
製造工程において、大量のCO2が排出されており、その量はA4の紙1枚で約6.5gと紙の重さ以上です。さらに、用紙製造時だけでなく、原料を工場に運んだり完成品をユーザーに届けたりといった輸送時にもCO2が排出されています。
1-2 印刷工程で起こる環境問題
【水質汚染】
一般的なオフセット印刷の場合、刷版工程で強アルカリ性の現像廃液が発生し、印刷工程では各種有害物質を含んだ湿し水を使用しています。
そのため、現像廃液、湿し水廃液、洗浄廃液など、印刷の各工程で発生する全ての廃液を、適切に回収・処理することが重要です。
コストはかかりますが、専門の産廃業者に処理をお願いすると安心です。
【有害物質の排出】
通常のインクや湿し水を使用した場合、揮発性有機化合物(VOC)が発生します。VOCには大気汚染を招く、危険性の高い石油系溶剤が含まれており、健康被害や環境汚染の原因となっています。
2.いろいろあります!エコな紙
2-1 FSC認証紙
FSCとは、Forest Stewardship Council(森林管理協議会)のことを指します。
森に生息する動物や植物、地域の人々に配慮し、未来に豊かな森を残すため、適切に管理された森の木材が使われていることを証明します。 FSCマークがついている製品を選んで購入することは、森林保護につながります。 FSCマークには、「FSC100%」「FSCミックス」「FSCリサイクル」の3種類があります。
FSC認証紙とは、FSCが定めた規格に則って管理された森林から生産された木材を使った用紙のことです。
【メリット】
・安心して使用できる
「今使っているノートは、違法に伐採された木材から作られた紙かも…」FSC認証マークの付いた製品を選べばそんな心配はありません。審査・認証された木材から作られた紙を、安心して使用でき、さらに環境保護にも貢献します。
・イメージアップ
信頼できる紙を使用している、環境保全に取り組んでいる企業としてPRできます。印刷物を作る側も使う側も安心です。
2-2 間伐材紙
木々が密集した森林では、日光が十分に行き届かず、成長が妨げられます。木々の健全な成長のために、森林内の一部を伐採することを間伐といい、その木材で作られるのが間伐材紙です。
【メリット】
・環境保護
間伐することで二酸化炭素をよく吸収し、さらに地盤が強くなり土砂崩れを防ぎます。間接的に環境保護活動に貢献できます。
間伐材利用促進とPRのため、「間伐材マーク」があり、間伐材を使用した製品に表示することができます。間伐材マーク認定製品を使用することは、日本の森林保全に貢献できます。
2-3 バナナペーパー
バナナは一つの茎から一つしか実が採れないため、次の収穫のために古い茎を切っていました。今まで捨てていた古い茎を、紙の原料として再利用したものがバナナペーパーです。
バナナペーパーは、アフリカ・ザンビアのバナナの茎の繊維と古紙やFSC認証パルプを混ぜ合わせて作られています。
【メリット】
・環境保護
木を切らないから森を守ることができ、動植物の保護にもつながります。
・高品質
普通の木からできた紙の繊維は約1ミリに対してバナナペーパーの繊維は約1メートルもあります。そのため、バナナペーパーは火や水に強く、高品質です。
・フェアトレード認証紙
日本初のフェアトレード(※)認証紙で、「貧困を超えるためのフェアな収入」「労働に対する平等な対価の支払い」など、ザンビアの村の貧困問題解決につながっています。
(※)フェアトレードとは…開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」をいいます。フェアトレード認証製品を購入することは、開発途上国の生産者をサポートすることにつながります。
(公式HPより引用:https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/)
2-4 ライメックス
ライメックスは、石灰石を主原料とした日本発の新素材で、紙やプラスチックの替わりとして期待されている素材です。
【メリット】
・優秀な主原料
原料の「石灰石」は世界にほぼ無限にあり、日本でも自給率100%の鉱物資源です。
・環境保護
製造工程において、木材を一切使用しません。また、水の使用量も少量で済みます。
・紙には無い、高い耐久性と耐水性
雨風にさらされても綺麗に保てるため、屋内外問わず使用できます。
2-5 素材いろいろ 非木材紙
【非木材紙】
針葉樹・広葉樹以外の植物の繊維から作られた紙です。
通常は捨ててしまうゴミを利用することで、木材の使用量が減少し、環境保全につながります。しかし、再生紙に比べ価格が高く、一般的なコート紙よりインキが乾くまでに時間がかかります。素材を生かした独特な手触りや風合いが特徴で、名刺や会社案内、パンフレットなど他とは違う個性的な印刷物を作りたいときにおすすめです。
・ケナフ
東南アジアやアフリカなどで栽培されるアオイ科ハイビスカス属の植物です。半年ほどで収穫できるため、安定して供給ができます。
やわらかい質感で、紙ナプキンなどに使用されています。
・バガス
サトウキビから砂糖を絞った残りかすで、木材パルプより低温度・短時間、そして少しの薬品で紙を作れます。
しっかりとした質感のある紙です。
・コットン
綿花繊維を紡績する時に出る綿繊維の屑を使用し、非木材の原料の中でもセルロースの含有率が多く、なめらかで強度のある紙です。
この他にも、お茶・ビール・コーヒーの絞りかすやデニムの切れ端、古くなった紙幣を裁断し利用した紙まであります。
3.再生紙は環境に優しいのか
3-1 再生紙とは
古新聞や古雑誌などの紙をほぐして繊維状にし、すき直して作った用紙を再生紙といいます。
日本では古紙を回収・リサイクルするルートが確立されているため、古紙回収率は約80%、古紙利用率は約67%と世界と比べても高い水準を誇っています。
また、再生紙であることが一目でわかるように設定されたものが「Rマーク」です。
「Rマーク」とは「3R活動推進フォーラム」の前身である「ごみ減量化推進国民会議」で定められた再生紙の利用促進のためのシンボルです。
このマークは、古紙パルプがどのくらい配合されているのかをパーセンテージで示し、一目で古紙パルプ配合率がわかるようになっています。
無料で誰でも使用できますが、正しい配合率を表示するなど、ホームページに記載されたルールは守りましょう。
3-2 再生紙は本当にエコ?
日本ではリサイクルが推奨され、再生紙=環境に良いというイメージです。
一方で、「再生紙はエコじゃない」という声もあります。
2007年には大手製紙メーカーが二酸化炭素排出量増加を原因に、古紙100%の再生紙の製造を廃止しました。
再生紙の原料となる古紙パルプは、以下のようにたくさんの工程を経て製造されます。
1.温水と薬品と古紙を混ぜ合わせどろどろにする
2.ゴミやチリを取り除く
3.洗剤を入れインクや塗料を取り除く
4.過酸化水素水で繊維を漂白
5.綺麗な水で洗う
6.脱水
このように、古紙パルプを新品同様に真っ白なパルプにするには、たくさんの薬品や水、エネルギーを必要とし、手間とコストもかかります。しかし、白色度や質にこだわらなければ、使用燃料の量も抑えられるので、再生紙がエコな用紙であることに変わりはありません。
「再生紙はエコじゃない」と決めつけるのではなく、製品の用途に合わせて古紙パルプと新しいパルプを使い分けていくことが大切です!
4.紙選び以外でエコな印刷方法
4-1 エコなインキ
ベジタブルインキ
ベジタブルインキは、再生可能な大豆油、亜麻仁油、桐油、ヤシ油、パーム油などの植物由来の油や廃食用油などのリサイクルした油が使われています。
紙とインキが分離しやすいため、印刷物の再生紙への利用が簡単かつ低コストで行えます。また、焼却時のVOC発生を抑えることができ、さらに微生物によって分解されやすく環境にやさしいインキです。
ノンVOCインキ
ノンVOCインキは、100%植物油インキとも呼ばれる、石油系溶剤を1%未満に抑えたインキです。ベジタブルインキよりもVOCの発生が抑えることができます。
しかし、揮発性が高い石油系溶剤に対し、植物油はべたべたとしているので乾燥に時間がかかるというデメリットもあります。
ライスインキ
ライスインキは、石油系溶剤の代わりに米ぬか油を使用したインキです。
国産の米ぬか油を使用しているため、国内での持続可能な原料調達が期待されており、輸送時にかかるCO2を削減できます。また、本来捨てられている米ぬかを再利用することによって、廃棄物の削減にもつながります。
UVインキ
UVインキは、UV(紫外線)を照射させることで固まるインキで、 VOCが発生しないため環境にやさしいです。
乾燥に時間がかからないため、短納期での受注に適しており、印刷表面が摩擦に強く耐久性に優れています。
しかし、他のインキに比べ、インキもUV関連の消耗品もすべて価格が高く、色の再現性が少し劣るのが欠点です。
4-2 水なし印刷
『水なし印刷』は、印刷時に有害な廃液を排出しない印刷技術です。
オフセット印刷(水あり印刷)では通常、水と油が弾き合う性質を利用するため湿し水が必要ですが、水なし印刷ではシリコーンゴムを使用するので、湿し水を一切使いません。
有害物質を排出しない環境にやさしい印刷方法です。
「水なし」なので、にじみが起こらず色が安定するため、高品質な仕上がりになります。
4-3 デジタル印刷
デジタル印刷とは、印刷用の版を必要とせず、デジタルデータから紙などに直接印刷を行う印刷方式です。
版が不要なので、時間短縮とコスト削減につながり、製版工程で現像液や定着液が排出されずエコな印刷といえます。
短納期で融通が利き、バリアブル印刷にも向いているデジタル印刷。
高画質で色の再現度が高いオフセット印刷と比較すると、品質は少し劣りますが、技術の進歩によりその差はほぼなくなってきています。
オフセット印刷に並び、デジタル印刷が印刷のスタンダードになる日も近いかもしれません。
まとめ.“エコな印刷”発注のすすめ
一言で「エコな印刷」と言っても、紙・インク・印刷方法と、さまざまなアプローチがあることをおわかりいただけたかと思います。
SDGsや環境保全への意識が高まっている今、「エコな印刷」を取り入れることで企業のイメージアップにもつながるでしょう。
地球環境に悪影響を及ぼすか、環境保全に貢献できるかは、選び方次第で大きく変わります。
環境保護のため、そして未来の私たちのためにエコな選択をしたいですね!