紙ソムリエの読み物

水なし印刷とは?SDGsとの関係とメリット・デメリットについて

この記事でご紹介するのは、オフセット印刷で必要な大量の水を使わず、有機溶剤などを排出しない印刷手法の「水なし印刷」

実は50年以上の歴史を持つ「水なし印刷」ですが、近年のSDGsな取り組みへの意識の高まりによって、再度注目を集めています。
従来の「水あり印刷」との違いや、メリット・デメリット、どのような点が環境保全への貢献に繋がるのかなどをまとめました。

「水なし印刷」で環境保全への取り組み姿勢をアピールしてみてはいかがでしょうか?

1.「水なし印刷」と「水あり印刷」の違い

1-1 「水なし印刷」とは?

「水なし印刷」とは、有害なVOC(揮発性有機化合物)を放出する廃液を排出しない、環境に配慮した印刷方法です。

通常オフセット印刷の印刷工程で使用する、H液やIPAなどを含む大量の「湿し水」や、刷版の現像で使用する強アルカリ性現像液を一切使用しないことで、廃液が生じず、環境にやさしい製造工程を実現することができます。

湿し水
画線部と非画線部を分けるために、非画線部を湿らせる液体のこと。オフセット印刷ではインキがのって紙に印刷される部分を「画線部」、それ以外を「非画線部」と呼びます。

H液
湿し水に含まれる薬品。バクテリアの好餌となる有機物質が多く含まれます。親水性・保水性・修復力を上げ、印刷力を引き上げます。

IPA
イソプロピルアルコールのこと。有機溶剤の一種で、湿し水に加えることで親水性をさらに高めることができます。IPAを加えると湿し水の被膜がさらに平滑になり、使用する湿し水の量を減少させることができます。

VOC
揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)のこと。

1-2 「水あり印刷」とは?

水なし印刷と反対に、非画線部と画線部を分けるのに「湿し水」を使う印刷方法をいいます。

インキのついた刷版から直接用紙に転写するのではなく、一度ブランケットと呼ばれるゴム製のローラーに転写(オフ)したインキを、さらに用紙に転写(セット)することから「オフセット印刷」ともよばれています。

1-3 「水なし印刷」と「水あり印刷」の違いは?

「水なし印刷」と「水あり印刷」は基本的な印刷方法において大きな違いはなく、どちらもオフセット印刷の一種です。
大きく異なる点は「版の構造」と「版の現像方法」にあります。

版の構造

通常のオフセット印刷(水あり印刷)の版は非画線部に「湿し水」を使用し、インキの油と反発させることで画線部と非画線部を分けています。

水なし印刷の版は、湿し水の代わりに非画線部をシリコンゴムの層にすることで、シリコンゴムがインキを弾き、画線部と非画線部を分けています。

版の現像方法

通常のオフセット印刷(水あり印刷)は、版の現像時に強アルカリ性現像廃液が発生します。この廃液は「特別管理産業廃棄物」として、専門の業者による回収が義務付けられています。

一方、水なし印刷は回収廃液を大幅に削減できる「水現像方式」という版の現像方法をとっているため、現像処理後の排水は下水に流すことができます。

2.「水なし印刷」のメリット・デメリット

2-1 「水なし印刷」のメリット

廃液を排出しない

IPAなどを含む大量の「湿し水」や、刷版の現像で使用する強アルカリ性現像液を使用しないため、これらの廃液を排出しません。

高品質

水なし印刷は水を使用しないため、インクの滲みが発生しません。
そのため、一つ一つの網点がくっきりと再現され、水あり印刷に比べて高精細な仕上がりになります。

紙伸びが起きない

紙は水を含むことで伸びることがあります。紙が伸びると見当ズレの原因にもなり得ます。
水なし印刷は印刷工程で水を使用しないため、紙伸びが発生する心配がありません。

2-2 「水なし印刷」のデメリット

ブロッキング(裏付き)が起こりやすい

水なし印刷では水を使用しないため、シリコンゴム層とブランケット胴のゴムが擦れることで静電気が発生します。紙が静電気を帯びることで紙同士がくっついてしまい、ブロッキング(裏付き)の原因となることがあります。

ピッキングが起こりやすい

水あり印刷に比べ、水なし印刷のインキは少し硬いため、印刷時にインキの粘着力で紙が引っ張られ、表面が変形・剥離する「ピッキング」という現象を起こすリスクが高まります。

ゴーストの出やすい絵柄への対策が苦手

水なし印刷は水あり印刷に比べ、ゴーストの出やすい絵柄への対処がしにくくなります。
ゴーストへの対処はインキの量や湿し水の量を調整するなどして行いますが、湿し水を使用しない水なし印刷は、インキの量だけで調節しないとならないため、取れる対策が限られてしまいます。

ゴーストについてはこちらの記事でご紹介しています。

3.SDGsを象徴するバタフライマーク

3-1 バタフライマークとは?

水なし印刷方式で印刷された製品には、バタフライマークを表示することができます。

日本WPA(Japan Waterless Printing Corporate Association)認定のこのバタフライマークは、環境保全に積極的に取り組む「水なし印刷実施会社」のみに付与され、使用が許可されています。

3-2 「水なし印刷」でSDGsに貢献

2015年9月の国連サミットで「ともに取り組むべき国際社会の普遍的な目標」として採択されたSDGs17のゴール(目標)のうち、水なし印刷は8つの目標へ貢献しています。

まとめ.「水なし印刷」で見直す環境問題

SDGsへの取り組みがより身近なものとなった昨今、個人としても企業としても環境問題について考える機会が増えたことと思います。

「水なし印刷」の環境保護におけるメリットは、湿し水や現像液の不使用によって廃液を大幅に削減できるということだけではありません。
「水質汚濁防止法」「化学物質管理促進法」「グリーン購入法」などの遵守、「ISO14000シリーズ」の対策にもなるとして、近年採用件数を伸ばしています。

印刷方法についてまでは普段なかなか意識することが少ないかもしれませんが、方法を変えてみるだけで参加できる環境保護があります。
印刷物の作成の際には選択肢のひとつとして、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか?

作りたい印刷物に「水なし印刷」が適しているかどうか?は、専門的な判断が必要となりますので、いつでも当サイト『紙ソムリエ』に相談してみてくださいね。

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