印刷における表面加工には、とても多くの種類があります。
「表面に光沢を持たせるには、どんな表面加工を選べばいいの?」
「人目に付きやすいように目立つ加工がしたい」
「ニス加工はどんな印刷物でもできるの?」
印刷物を発注する際に、このような要望や疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。
それぞれの加工の特徴や納期・注意点などを詳しくご紹介していきます。
1.知っておきたい表面加工のこと
1-1 表面加工のメリット
・印刷物がより目立つようになる
例えば、表面に光沢を与えるニス引き加工やPP加工は「高級感」、文字やイラストを際立たせるエンボス・デボス加工は「迫力」を持たせることができます。
表面加工を行っていない印刷物と比べれば、同じ紙を使っていてもその違いは一目瞭然であり、人目に付きやすいため宣伝や販促といった効果が期待できます。
・耐久性の向上
ニス引き加工やPP加工は光沢を与えるだけでなく、表面をニスやフィルムで覆うため印刷面を汚れから守る効果があります。
手に取ることの多い印刷物であれば、表面加工をしておくことで、見た目の良さだけでなく保護という面でも役立つでしょう。
1-2 表面加工のデメリット
・加工できない用紙もある
幅広く対応できる表面加工ですが、すべての用紙に加工可能というわけではありません。
例えば、PP加工は熱によってフィルムを圧着させます。そのため、石油合成紙である「ユポ」や薄い用紙を用いると、よれやしわになってしまい加工ができません。
他にも、用紙に凹凸の立体感を与えるエンボス・デボス加工も、用紙の質や素材によっては加工が難しく、思うような効果が得られないこともあります。
・費用、日数がかかる
通常の印刷工程に追加で加工を施すので、費用や日数がかさみます。
加工に適していない紙を使用すると、思っていた仕上がりにならないだけでなく、さらにコストと日数がかかってしまいます。どのような意図でどんな加工を施したいか、はじめに決めておきましょう。
ここまで、表面加工の大まかなメリット・デメリットについて説明しました。次から表面加工の内容について、具体的にご紹介します!
2.ニス引き加工・PP加工
2-1 ニス引き加工について
〈ニス引き加工の特徴〉
・表面を保護して色褪せや汚れを防ぐ
・光沢感を出せる
・耐久性を与え、印刷面のこすれや傷つき、色移りを防ぐ
・PP加工よりも安価かつ短納期で可能
・PP加工と違って細かい絵柄でもピンポイントで塗布できる
ニス引き加工は光沢感を出したり、退色を防いだり、指紋やごみなどの汚れから印刷面を保護したりするための塗料による表面加工です。
同じく光沢によって表面保護や高級感を出すことを目的とするPP加工と比較すると、熱による圧着ではないためよれやしわを気にする必要はありません。
多少の撥水性も得られ、紙にほんの少し厚みがでます。
また、PP加工よりも短納期で、一部分のみに施すこともできるため細かい模様などの複雑なデザインでも融通がききます。
〈おすすめの使用例〉
・チラシ、ポスター
・パンフレットの表紙
・紙袋
・CDやDVDなどのカバージャケット
・商品パッケージ
2-2 PP加工について
〈PP加工の特徴〉
・表面を保護して色褪せや汚れを防ぐ
・ニス引き加工よりも強い光沢感と厚みを出せる
・ニス引き加工よりも高い耐久性、耐水性を与え、長期使用に向いている
・ニス引き加工と違って印刷面の全面に貼り付けるため、ピンポイントに施せない
・圧着させるPPフィルムの違いによって異なる質感を与えられる
ニス引き加工と混同しやすいですが、ニスは樹脂などをアルコールで溶かした塗料であるのに対して、PPはポリプロピレンのフィルムです。
部分的に塗布できるニスとは違って、印刷面の全面を覆います。厚みや耐久性、耐水性、光沢感はニス引き加工よりも優れています。
また、目的に応じて「グロスPP」と「マットPP」の2種類を使い分けできることも、PP加工の特徴の一つです。
「グロスPP」は、ニス引き加工と同じ光沢感が特徴ですが、熱によって印刷物に直接フィルムを圧着させるため、ニス引き加工以上の濡れたような光沢感と艶感を出すことができます。「クリアPP」とも呼ばれています。
一方で「マットPP」は、艶を抑えた柔らかな光沢感が特徴です。シックで落ち着いた高級感を出すことができます。
両者は見た目の違いがほとんどで、耐久性や耐水性は変わりません。ただし、マットPPの方がグロスPPよりも原料が高いため、その分コストも上がります。
PP加工は、熱による圧着を行うため、用紙の厚さによってはよれやしわが発生するので、ニス引き加工との選び分けが重要です。
〈おすすめ使用例〉
・書籍の表紙カバー
・雑誌、パンフレット、記念誌などの表紙
・店頭POP
・ポスター
・紙袋
・飲食店などのメニューシート
◆グロスPPのメリット
写真を多用した雑誌やポストカードなどで使用すると、鮮やかな色使いが一段と際立ちます。
豪華できらびやかな雰囲気があるため、美容系やアパレル系の紙袋、贈答品のパッケージなどにも幅広く用いられます。
彩度の高いイラストもよく映えるので、教科書や、漫画本の表紙、絵本といったポップな子ども向けの商材と合わせるのもオススメです。耐久性が上がる点でも相性が良いです。
◆マットPPのメリット
しっとりと上品で、落ち着いた雰囲気に仕上げたいアイテムになじみます。
例えばIT、不動産、医療系、高級ブランド店などのパンフレットやパッケージです。「高級感は欲しいけれど、あまりキラキラと華美にはしたくない」というニーズにぴったりです。
グロスPPよりも光の反射が細かく落ち着いているため、デザインやレイアウトをきちんと見せたい商品に適しています。
また、熱圧着によるフィルム加工には似た性質を持つ「パウチ加工」という手法があります。
2-3 パウチ加工について
〈パウチ加工の特徴〉
・表面を保護して色褪せや汚れを防ぐ
・プラスチックのフィルムで覆うため、光沢感と厚みが増す
・両面から密閉されているので、耐水性・耐久性に優れている
・数ミリのフチが付くため、ニス加工やPP加工に比べて見た目の美しさが劣る
・熱によって変質する紙など、不向きな素材がある
パウチ加工は、ポリエチレンテレフタラートという素材を印刷物の両面から全体を包むように熱圧着させる加工です。「ホットラミネート」とも呼ばれています。
通常1~5ミリ程度のフチができますが、このフチによってニス引き加工やPP加工よりも水に強く、耐久性に優れた製品になります。
両面から印刷物を包み込み、密閉されているため浸水した場合でも問題ありません。レストランや居酒屋のメニューシートや病院の診察券など、水気を気にせず長持ちさせたい媒体に適しています。
フチなしのパウチ加工もできますが、耐久性が落ちる、水がしみ込みやすくなるなどのデメリットがあります。
〈おすすめ使用例〉
・屋外掲示のポスター
・店頭POP
・飲食店などのメニューシート
・名刺、社員証、診察券などのIDカード
・記念写真
また、熱で圧着させるため、熱によって変質する素材だと焦げてしまうおそれがあります。レシートやチケットなどの感熱紙、クレヨンで描かれた絵や、セロハン、インクジェット紙などが該当します。
折り目やしわの入った紙も空気が入りやすく、剥がれる可能性がありますので、パウチ加工ができるかどうかは事前にきちんと確認しましょう。切手や金券なども加工できません。
〈パウチ加工に不向きなもの〉
・熱によって変質する素材
・熱によってインクが消える筆記具で記入された書類
・和紙など、極端に薄い紙
・ボール紙など、極端に厚い紙
・折り目やしわの入った紙
・表面が凸凹している紙
2-4 抗菌加工について
抗菌加工とは、抗菌剤入りのニスやフィルムを用紙の表面にコーティングすることで、抗菌効果のある衛生的な印刷物に仕上げる方法です。
昨今は感染症の拡大により、衛生への意識が高まっています。抗菌加工を施すことによって、安心安全をアピールでき、心置きなくチラシやパンフレットを手にとってもらうことができます。
抗菌加工についてはこちらの記事で詳しくご紹介しているので、ぜひご覧ください。
3.箔押し加工・エンボス/デボス加工
3-1 箔押し加工について
箔押し加工は、印刷物の加工を行いたい箇所に接着剤の付いた箔を載せ、熱を加えながらプレスすることで金属の質感を出す加工です。
表面加工としても輝かしい見た目で人目を惹き、また特別感や高級感の演出という点においても非常に効果的です。
その色合いは金銀などの金属光沢から赤や青、透明色などさまざまで、後ほどご紹介するエンボス・デボス加工と組み合わせることで相乗効果を発揮します。
しかし、デザインごとに専用の金属板が必要となるため、箔押しの加工費用に加えて、その金型を作る費用もかかります。
また、細かい文字を箔押しで入れると、つぶれてしまう可能性があるので注意しましょう。
魅力的な要素が多い箔押し加工ですが、色や文字のサイズ、箔押しの範囲などの条件によって事前の準備期間が大きく変わるので、余裕のあるスケジューリングが大切です。
詳しくはこちらでもご紹介しています。
3-2 エンボス加工/デボス加工の特徴
〈エンボス加工・デボス加工の特徴〉
・印刷では表現できない立体感と高級感を表現できる
・視覚だけでなく、手で触って楽しむことができる
「エンボス加工」は、用紙の両面から凸凹の版を押し付けて挟むことによって印刷物の一部をふっくらと盛り上げ、立体的に仕上げる加工です。浮き出し加工とも呼ばれます。
「デボス加工」は、エンボス加工の逆です。凸凹の版で用紙を挟みこみ、印刷物の一部をぽっこりと凹ませ、立体的に仕上げる加工方法です。
ちなみに、デボス加工と混同しやすい加工に「空押し加工」という方法があります。
これは凸型の版だけを使って、印刷物の一部に圧力をかけて凹ませる加工方法です。用紙を上下から挟み込んで圧力をかけるデボス加工と違って、上からの圧力のみのため、印圧の調整ができ、裏面に響かないよう凹みの深さを調整できます。細かい文字や絵柄の表現も可能です。
光沢のあるコート紙とツヤのないマット紙では、光沢紙の方が光の反射によって加工が強調されます。また、印刷の線や箔押しに併せてエンボス・デボス加工を施すなど、紙・印刷・加工の組み合わせによってさまざまな表現が可能です。
ただし、箔押し同様に小さすぎる文字や細かすぎる絵柄は表現しにくいので、注意してください。
〈おすすめ使用例〉
・書籍の表紙カバー
・雑誌、パンフレット、記念誌などの表紙
・パッケージ
エンボス加工は極端に薄い紙や厚い紙では、思うように効果が得られません。そのような場合は、ニスを用いた「疑似エンボス加工」がおすすめです。
疑似エンボス加工は印刷後に加工を施すのではなく、印刷工程で特殊なニスを用いて立体感を表現するので、用紙の種類によって加工できないということはありません。
また、他の表面加工に比べて短納期・低コストで行えるというメリットもあります。
4.型抜き・その他の加工
4-1 型抜きについて
「型抜き」とは、好きな形に型を作成し、そのシルエットで抜き出す加工です。外側だけでなく、内側をくり抜くことも可能です。
ひとつひとつ型を作るので型代が必要ですが、そのぶん形状は自由です。
例えばステッカーをキャラクターのシルエットに抜いたり、ページ物のパンフレットをまるごと円形にしたり、一枚の紙から立体的に組み立てられるPOPにしたりと、型抜き加工を施せば、ぐっとオリジナリティのある印刷物に仕上がります。
特に自社を紹介するパンフレットやショップカード、新商品を宣伝するようなPOPであれば、ただ平面的で四角い紙に印刷したままよりもインパクトがあり、訴求効果アップが期待できます。紙媒体ならではのハンドメイド感が出て、雑貨や文房具などとも相性が良いです。
ただし、あまりにも複雑で細かい形や、厚い紙だと対応できないので注意が必要です。
イメージ通りに仕上げるためにも、綿密に事前の打ち合わせを行いましょう。
4-2 その他さまざまな加工
ここからはさまざまな加工方法について紹介していきます。
スジ入れ
スジ入れ加工とは、印刷物を折り曲げやすくするためにスジ(折り目)を入れる加工です。
厚紙にも加工することができ、折り加工で生じる背割れを軽減する効果があります。
ミシン入れ
ミシン入れ加工とは、印刷物を手で簡単に切り離せるようにミシン目を入れる加工です。
チケットや回数券におすすめです。
通常は、紙の端から端までまっすぐにミシン目を入れますが(=スリッターミシン)、クーポン付きチラシのように、紙の途中でミシン目を止める加工(=ジャンプミシン)もよく使われます。
孔あけ
その名のとおり、印刷物に孔をあける加工です。
壁掛けカレンダーや帳票、商品タグなど幅広く使われます。
あけた孔にフックやひも、金具を通して、所定の位置に固定、または収納します。
角丸・角落とし
印刷物の角を丸くする加工です。角丸のサイズをRで表すことから「角R加工」とも呼ばれます。
角丸加工を施すことによって柔らかい雰囲気に仕上がります。
また、角で手や商品を傷つけるのを防ぎ、角が折れ曲がりにくくなるといったメリットもあるので、診察券やショップカード、メニュー表など手に取って使うものにおすすめです。
絵本やトランプといった子どもが触れる商材も、角丸加工になっていることが多いです。
まとめ.一味違ったこだわりの加工で集客UPへ
印刷物の基本的な表面加工と、その役割についてご紹介しました。
印刷物に高級感・特別感を与えてくれる加工ですが、効果的に使うためには素材選びや納期の変動にも注意が必要です。まずは、それぞれの表面加工がもつ基本的な特徴やメリット・デメリットを知っておいてください。 加工で一味違った印刷物を作り、集客UPを目指しましょう!