「SDGsを印刷に取り入れる」というフレーズを聞いたとき、多くの方は「印刷は紙やインキを使うからSDGsには貢献できないのでは?」と思うかもしれません。
一見すると関連性がないように思われる『印刷』と『SDGs』ですが、実は、印刷業界のSDGsへの取り組みは、目に見えるところから見えないところまで多岐に渡ります。
これから、印刷業界全体の取り組みや各工程のSDGsとの関わり方を紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
Index
1.SDGsとは?印刷はエコじゃない?
1-1 SDGsとは世界規模の目標
はじめに、SDGsとは17のグローバル目標と169のターゲットからなる、国連によって定められた持続可能な開発目標のことです。
『貧困や教育などの社会的な問題解決のための目標』
『資源の有効活用や働き方の改善など、経済的な問題解決のための目標』
『地球全般における環境的な問題解決のための目標』
などの世界全体で改善していくべき諸問題に対する目標が掲げられています。
では、その各項目の中で印刷業界はどの項目と関わりがあるのでしょうか?
1-2 SDGsと印刷業界
印刷業界はSDGsの目標のほぼ全てと関わりがあります。また、印刷だけでもいくつもの作業工程があるので、行う取り組みの多さから目標6~7・12~15と広く該当します。さまざまな種類や特別な認証のある用紙もその一つです。
たくさんの選択肢をもっている印刷会社を選ぶことでより多くの目標へ貢献できるので、ホームページをご覧になる時に参考にしてみてください。
1-3 SDGsへの相互理解
SDGsの目標達成に貢献したいと思っても、印刷についてあまり知らなければ、『何を選べばよいのか』『それを選んだ場合、どんな変化があるのか』などの重要な点が分かりにくいです。
これから印刷業界のSDGsへの取り組みを紹介します。理解と納得をしたうえで、SDGsに貢献していきましょう!
2.用紙、加工素材から見直す
2-1 一貫性の高いFSC認証
用紙の原料である木材ですが、年々森林の面積は減少し、世界の大きな問題となっています。減少の理由は、違法に伐採されているためです。制限を守らずに伐採された木材が市場に流通し、用紙を作る際に混入してしまうという問題が起きています。
そうした問題を解決できるのが『FSC認証マーク』です。
これは『伐採される森林』と『それによって生産される製品』、『その製品の流通』を評価・認証し証明するものです。
紙の製造・印刷・加工を行うそれぞれの業者が、厳重な審査によって認証を受けるため、FSC認証マークを得た製品は高い信頼性を待ちます。審査はFSC(※)と認定された第三者機関によって行われるので、より高い信頼度が得られます。
※FSCとは…1990年に森林に携わる各業界の代表が一堂に会したことから発足した『Forest Stewardship Council(森林管理協議会)』の略称。1993年にカナダで開かれた総会にて創設された、世界規模で森林認証を行う非営利の国際NGO。
2-2 木材パルプ以外の選択、代替紙
管理された森林から木材を計画的に使用していくという一方で、木材を使わない『代替紙』が注目されています。
ここでは『ライメックス』という新素材についてご紹介します。
ライメックスは、石灰石を主原料とした日本発の新素材で、資源不足や環境破壊が問題となるなか、紙やプラスチックの替わりの素材として期待されている素材です。
下記にメリットとデメリットをまとめてみました。
〈メリット〉
・優秀な主原料
主原料の「石灰石」は世界にほぼ無限にあり、日本でも自給率100%の鉱物資源
・環境保護
製造工程において、木材を一切使用しない、水をほとんど使用しない
・紙には無い、高い耐久性と耐水性
雨天時や屋外での活動の際にも綺麗に保てるため、用途が広がる
環境問題の解決につながるため、SDGsの目標達成に貢献します。
〈デメリット〉
・リサイクルが難しい
紙とは別のルートでリサイクルする必要がある。しかし、まだ回収する方法やルートが確立されていない
・通常の用紙に比べ割高
メリット・デメリットをあげましたが、長い目で見ると、メリットの効果が大きく得られます。ライメックスが一般的な素材として認知されていけば、リサイクルが簡単になりデメリットも解消されるでしょう。
3.印刷工程ではさまざまなSDGsが実現可能
3-1 環境に配慮するインキ
環境に配慮したインキの代表として『植物油インキ(ベジタブルインキ)』が挙げられます。これは大豆油から作られた『SOY INK(大豆インキ)』を発展させたもので、大豆油に限らず、亜麻仁油・桐油・ヤシ油・パーム油など植物由来の油や、廃食用油などをリサイクルした再生油から作られています。
ベジタブルインキには、下記のメリットがあります。
・石油系インキに比べて紙とインキが分離しやすいため、再生紙へのリサイクルが簡単かつ低コストで行える
・燃やした時に大気汚染の原因となる成分が発生しにくい
・植物由来のため、微生物によって分解されやすく環境にやさしい
環境に配慮したインキは、その他にも『ノンVOCインキ』や『バイオマスインキ』などさまざまな種類があります。このインキを使用することで、SDGsの17の目標のうち、主に「13.気候変動に具体的な対策を」「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」に貢献できます。
3-2 世界に羽ばたくバタフライマーク
『水なし印刷(バタフライマーク)』は印刷時に有害な廃液を排出しない「水なし平版方式」という技術を使います。オフセット印刷(水あり印刷)では通常、水と油が弾き合う性質を利用するため湿し水(※)が必要ですが、水なし印刷ではシリコーンゴムを使用するので、湿し水を一切使いません。そのため、有害物質を排出しない環境に優しい印刷方法となります。
環境に優しい印刷方式の考案は、印刷業界の環境問題に対する意識の高さから生まれています。この技術は、SDGsの17の目標のうち、主に「6.安全な水とトイレを世界中に」に貢献しています。
※湿し水…水あり印刷で、版の非画像部へ印刷インキが付着しないようにするための水のこと。各種有害物質が多く含まれているため、印刷中にVOC(揮発性有機化合物)が排出されると健康被害や環境汚染の原因になる。
3-3 環境配慮の見える化
環境に配慮した製品作りのために、工場、資機材、印刷製品を対象とした制度が『グリーンプリンティング認定制度』です。
認定基準は、法令や条例の遵守はもちろんのこと、地域住民への配慮(悪臭、騒音などを未然に防ぐ)から地球規模での環境対応(大気汚染防止、廃棄物削減、リサイクル推進など)まで幅広く定められています。
オフセット印刷、シール印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷の4部門を対象に審査が実施されており、基準に適合していればGPマークを表示可能です。マークは「ワンスター」「ツースター」「スリースター」の3段階となっており、星の数が増えるほど、環境配慮レベルが高いと評価されます。
ホームページや名刺などにGPマークが付いていれば、SDGsの目標実現に取り組んでいる印刷会社であるとアピールできるでしょう。
4.フォント使いから古紙リサイクルまで、印刷前後に隠れたSDGs
4-1 十人十色の見え方
「ユニバーサルデザイン」とは、文化や言語、国籍、性別、年齢、障害の有無や能力差に関係なく、だれもが利用できることを目指したデザインのことです。例えば、オリンピックのロゴマークで注目されたピクトグラムも、ユニバーサルデザインとして挙げられます。
「誰一人取り残さない社会の実現」が掲げられているSDGsと、「誰もが使いやすいデザイン」を目指すユニバーサルデザインは、「誰もが」「安心して暮らせる」という共通の考えを持ちます。
印刷業界では、すべての人に分かりやすく、読みやすく、間違えにくいというコンセプトで作成された「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)」が開発されました。特に最近では、駅名標や高速道路の標識をはじめ、公共機関の案内版に採用され、あらゆる人が快適に利用できるような正確な情報伝達に役立っています。
また、フォントだけでなく、色についてもユニバーサルデザインが求められています。色覚の多様性に配慮し、全ての人に情報が正確に伝わるように考えられたデザインを「カラーユニバーサルデザイン」と言います。全ての人に美しく感じられるカラフルなデザインを創りつつ、なおかつ情報を正確に伝えることが可能になります。
製品を作るうえで、誰もが読みやすいようにデザインすることはSDGsへの貢献とともに、印刷業界にとって重視すべき要素です。
4-2 回収は改めて使うために
今現在、用紙は再生紙としてリサイクルすることが主流です。
日本では古紙回収の仕組みが確立しているので、古紙の利用率は67.2%、回収率は85%と世界と比べても非常に高い水準となっています。
リサイクルすることはSDGsの目標「12.つくる責任 つかう責任」の中の「2030年までに、ごみが出ることを防いだり、減らしたり、リサイクル・リユースをして、ごみの発生する量を大きく減らす。」につながります。
印刷業界も紙と分離しやすいインキを使用した印刷物で、リサイクルへの取り組みを後押ししています。
まとめ.SDGs仕様の印刷依頼は、事前に可否の確認を!
これまで、印刷業界のさまざまなSDGsへのアプローチをご紹介してきました。
印刷物は、デザインに始まり多くのプロセスを経て作り上げられるもので、それらの全てのプロセスでSDGsと密接につながりを持っています。技術革新のおかげで「水なし印刷」などの新しい印刷方式や「ライメックス」といった新素材が生まれるなど、環境配慮のための努力が重ねられています。
SDGsへの高まる関心は、印刷業界も例外ではありません。ただ、こちらでご紹介した取り組みがすべての印刷会社で対応可能とも限りませんので、SDGs対策をご検討の際は、委託先の印刷会社に「SDGsに配慮した仕様は何ができるか」「納期や予算に見合った仕様となるか」を事前にご相談されることをおすすめします。 ペーパーレス化が叫ばれる現代、印刷物にもSDGsを上手に取り入れながら、無理なく無駄なく、人にも環境にもやさしいものづくりを目指していきたいですね。