「製本について調べたけど、種類がたくさんあってわからない」
「自分が作りたい本が、どのような形状なのか説明できない」
「本の完成形を説明したら、印刷会社に無理と言われた…」
「そもそも製本とは?」
そんな製本で悩めるみなさまへ、まず「製本」とは、紙を綴じ合わせて冊子(本)の形にすることです。
そして本を作るには欠かせない完成形の基礎になる部分です。製本は奥が深く、方法も多くあります。製本について調べたみなさまが、理想の形を再現できるお力になれればと思います。データ制作に携わる方が製本の知識を深められれば、より制作の幅が広がることでしょう。
この記事では、製本の種類と方法、そのメリット・デメリットをお伝えします。また、製本の中でも比較的低コスト・短納期の「中綴じ」・「平綴じ」製本についてご説明いたします。ぜひ、ご自身が作りたい本の形を想像してみてください。
Index
1.製本は大きく3種類、中綴じ・無線綴じ・糸かがり綴じ
1-1 並製本と上製本
製本と聞いて、どんな本の形を想像しますか。身近な本というと雑誌や小説、教科書、図鑑、説明書、漫画、映画やコンサートのパンフレットなど、さまざまな本があります。
本の形には代表的な2種類、並製本と上製本があり、本の形を決める製本の方法は大きく分けて3種類、中綴じ(平綴じ)・無線綴じ(アジロ綴じ)・糸かがり綴じがあります。
製本の方法によっては、印刷のページの構成や製本機の種類も変わってきます。用途や特性、製本事例などを紹介しながら、製本についてご説明します。
並製本
表紙の紙が柔らかく、曲げやすい本。ソフトカバーと呼ばれる。本文を表紙の紙で包んだものもある。文庫本や参考書などに使用される。上製本に比べ軽量であるため、持ち運びにも良い。
上製本
表紙に厚紙や布、皮などを使用した本。ハードカバーと呼ばれる。図鑑やアルバムなど長く保存ができるものに使うことが多い。
(1)針金で綴じる、中綴じ・平綴じ
並製本のうち、代表的な綴じ方の1つに中綴じ・平綴じがあります。簡易製本とも呼ばれ、文字通り製本の中でも最もシンプルな製本になります。中綴じ・平綴じは針金で綴じられています。針金で綴じられる場所によって、中綴じと平綴じに分けられます。
(2)糊で綴じる、無線綴じ・アジロ綴じ
並製本と上製本の両方で使われるものに、無線綴じ・アジロ綴じがあります。中綴じ・平綴じとともに、無線綴じ・アジロ綴じも広く一般的です。無線綴じ・アジロ綴じについての詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。
(3)糸で綴じる、糸かがり綴じ
主に上製本で使われるのが、糸かがり綴じです。印刷した紙を糸で縫い綴じています。糸の縫い方によって名前も変わりますが、製本の耐久度が高く、長期保存に適した製本です。古くからある製本方法の一つで、日本古来の和綴じもこの糸かがり綴じの一種になります。糸かがり綴じ・上製本についての詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。
1-2 本を作るときに考えたいこと
製本についてお調べになったみなさまも、ご自身がどのような本を作りたいのか想像できましたか。作りたい本の形状がどういったもので、どのようなメリット・デメリットがあるのか、具体的にイメージしてみましょう。製本の第1回目として、今回は製本の方法と中綴じ・平綴じについて説明していきます。
2.製本の流れと印刷用語を覚えて、スムーズにイメージを伝える
2-1 製本の流れ
製本は、下記の4つの流れから成り立ちます。
STEP1.印刷する
STEP2.印刷した用紙を折る
STEP3.ページごとに重ねて綴じる
STEP4.形を整える(断裁する)です。
STEP1.印刷する
冊子を印刷するときは、大きな紙で印刷します。1枚の紙に最大16ページまで印刷します。この印刷された紙を「刷り本」と呼びます。プリンターのようにページを1枚ずつ印刷するのではないのですね。
印刷する絵柄や並び方は、印刷独特のものとなります。印刷する絵柄の並べ方を「面付け(めんつけ)」と呼びます。
刷り本を見てみると、記号のようなものがたくさんあります。これらは製本するときに必要なしるしです。これらの名称と役割も覚えておくときっと役に立つと思います。
印刷面の上下左右にある「トンボ」、それぞれ印刷の長辺に対して短い方の線を「内トンボ」、長い方の線を「外トンボ」と呼びます。四隅の内トンボを結ぶことで、実際の完成サイズになります。内トンボと外トンボの間の部分は3mmあり「断ち落とし」または「塗り足し」と呼ばれ、印刷面の端までくる絵柄はここまでデータが入ります。印刷機では端まで印刷するために、この部分が存在します。大きく印刷して、小さく切るからです。これは通常のプリンターと大きく異なる部分です。なんとなく見慣れているかもしれませんが、通常のプリンターなどでは端まで印刷できません。
トンボの外側、用紙全体にも余分な部分があります。印刷機では、紙を1枚1枚機械が摘まんで印刷します。この用紙をつまむ部分を「クワエ」、つままなかった部分を「クワエジリ」と呼びます。
刷り本(または、刷り出し)
印刷機から刷り上がった紙のこと。
面付け
用紙にどのように印刷するかを決めた並び方のこと。製本の方法、総ページ数、紙の種類などで絵柄の並び方が変わる。
トンボ
印刷面の上下左右にある、くの字型もしくは十字型の線。内トンボ・外トンボがあり、その間は3mm程度空いている。内トンボ同士をつなげることで、完成サイズになる。
断ち落とし・塗り足し
内トンボと外トンボの間の部分。端まで絵柄が入る場合、ここまで絵柄が入る。断裁時、端まで絵柄が入るようにする大切な部分。
クワエ
印刷機に入るとき、用紙をつまむ部分。用紙に対して長辺の部分で、印刷機に流れる際はここから先に入る。
クワエジリ
印刷機に入るとき、用紙をつままなかった部分。クワエに対して、反対側の長辺にあたる。
STEP2.印刷した用紙を折る
製本機に通して刷り本をページ順になるように折ることを「折り」と呼びます。刷り本を半分に1回折り4ページに、2回折り8ページ、3回折り16ページにとページ順に折られた状態になります。この折り方をそれぞれ、「4ページ折り」「8ページ折り」「16ページ折り」と呼びます。これらの束を組み合わせて本を構成します。ページ物のデータを作成する際は、4の倍数を意識して作ると良いでしょう。
製本の都合によっては、大きな刷り本を先に断裁、つまり小さくして製本機に通すこともあります。これを「大断ち(おおだち)」と言います。
STEP3.ページごとに重ねて綴じる
折られた刷り本は製本機でページ順に重ねられ、針金で綴じられます。複数の刷り本がある場合は、それぞれの刷り本を重ねることを「丁合(ちょうあい)」と言います。製本の方法によって、この重ねられ方が異なります。
中綴じの場合、製本機に乗せられて内側からページ数の多い順に刷り本を重ねます。綴じや無線綴じは、ページや刷り本ごとに重ねられます。無線綴じの丁合については、こちらの記事で詳しく説明しています。
STEP4.形を整える(断裁する)
綴じられた本には、塗り足し部分やクワエやクワエジリなど余分な部分があります。綴じられている辺以外を「化粧断ち」することで余分な部分を取り除き、本が完成します。製本時の化粧断ちを「三方断裁」とも呼びます。
※平綴じで正寸サイズの用紙を綴じる時には、化粧断ちはしません。
大断ち(おおだち)
製本機に流すため、刷り本のサイズを調整すること。
折り
用紙を半分に1回折る4ページ折り、2回折る8ページ折り、3回折る16ページ折りがあり、折りを組み合わせることで任意のページ数に調整します。
丁合(ちょうあい)
印刷された用紙や折られた刷り本をページ順に重ねていくこと。
綴じ
製本の形態によって、針金、糊、糸などで綴じること。
化粧断ち
四隅の内トンボに沿って用紙や本を断裁、完成サイズに仕上げること。仕上断ち(しあげだち)とも言う。本以外に仕上げるときの断裁にも使う。
三方断裁
化粧断ちの中でも、本の天、地と小口側(後述)の長辺を断裁し形を整えること。
2-2 覚えておくと便利、本のパーツの名称
ここで覚えておくと便利な本のパーツの名称をご紹介します。本の形状を具体的に説明する際や、印刷会社とのやり取りで出てくる耳慣れない単語を理解するために、ぜひ参考にしてみてください。
表1
表紙のこと。
表2
表紙の裏のページのこと。
表3
裏表紙の裏のページのこと。
表4
裏表紙のこと。
小口
本の綴じられていない対向辺、ページを繰る側。
背
本の綴じられている、外側の部分。背表紙ともいう。
ノド
本を開いたとき、綴じられている内側のこと。
天
本を正面に向けたとき、上に来る部分。
地
本を正面に向けたとき、下に来る部分。
ページ
印刷片面で1ページ、表裏の印刷だと2ページ分になる。
ノンブル
ページ番号のこと、基本的に表1~4を含めないことが多い。
通しノンブル
表1~4まで合わせたページ番号のこと。印刷会社など内部で使うことが多い。
奥付
本の最後の、書籍名や著者名、出版社名、発行日などが記載された部分。
3.【中綴じ】特徴とメリット・デメリット
中綴じとは、背側からノドにかけて、紙に対して平行に針金で綴じられたものをいいます。常は2か所、上下に綴じられています。並製本・簡易製本と呼ばれるものの一つに入ります。ページを開いたとき、中央のページに針金の折り込まれた先端部分が確認できます。
3-1 中綴じのメリット、中綴じに向いた製品
・簡易製本というように、一連の作業工程が簡素なためスピーディに綴じられる
・大量ロットでも比較的短納期で対応でき、価格も製本の中では比較的リーズナブル
・ノドの部分を針金で綴じているため、ページを開いたとき、中央まで絵柄が見える
・ページの内側中央に針金の先端があるため、針金の先端が内側に隠れて、周りの本を傷つけにくい
・対応するのは薄めの冊子がメイン
とても一般的な製本方法で、様々なところで見られます。
3-2 中綴じのデメリット、中綴じに向かない製品
・他の製本に比べて強度が低く、長期保存をする本には向かない
・中綴じには背がないため、本棚などで管理がしにくい
・用紙の厚みにもよるが、薄めの冊子がメインになるため、ページ数の多い本は綴じられない
・用紙の折り目の部分を綴じるため、総ページ数が4の倍数でしか綴じられない
→中綴じをお考えの方は、ページ数に注意してくださいね。
3-3 製本のページ数の目安とサンプル事例
用紙の厚みと中綴じのページ数について、おおよその目安を記載します。(表1)
用紙が厚いと必然的に綴じられるページ数も少なくなります。作りたい本の総ページ数で目安にしてください。 薄めのカタログや映画・コンサートのパンフレット、取扱い説明書などに広く使われています。用紙の厚みについては、こちらの記事をご参照ください。
表1 中綴じページ数の目安
※上質紙の場合
3-4 中綴じの進化系・アイレット綴じ
中綴じの中には、似た綴じ方にアイレット綴じがあります。中綴じの背部分の針金が半円状に飛び出た形状になっています。
中綴じのカタログなどを何冊かファイリングしたいときや、小冊子を吊り下げて販促活動を行いたいときに、冊子に穴を開けなくても対応できます。特殊な針金を用いるため、本文中の絵柄や文字を失うことなくファイリングすることが可能です。
4.【平綴じ】特徴とメリット・デメリット
平綴じとは、中綴じと同じく針金で綴じてあり、並製本・簡易製本の一つに入ります。中綴じと異なり、表紙(表1)から裏表紙(表4)までページ番号順に丁合し、表紙から裏表紙に針金が入るように、紙に対して垂直に綴じます。
そのまま針金が見える状態と針金が隠れるように表紙を包む綴じ方(*1)があります。
4-1 平綴じのメリット、平綴じに向いた製品
・同じ針金で綴じられている中綴じよりも強度が高い
・中綴じと違い2ページ単位で綴じられるため、ページ数に自由が利きやすい
・厚めの平綴じは機械で製本できるため、スピーディに綴じられる(ホチキスが見える仕上りの場合)
・針金を変えることでページ数がかさんでも綴じられる
・背を包むようにクロス巻き(*2)をすることで、製本の強度・安全性を高め、繰り返し使えて、長期保存も可能
・本に背表紙を作り、高級感を出せる
・正寸サイズの用紙も綴じられる
薄い冊子ならご家庭でも簡単に綴じられる、簡単な製本方法が魅力です。
(*1)包み製本
本文と表紙を分けて印刷し、製本時に本文を包むようにして綴じること。
(*2)マーブル巻き・クロス巻き
背の部分にマーブル(紙)やクロス(布)のテープを貼り付け、製本の強度・耐久度を上げる加工。
4-2 平綴じのデメリット、平綴じに向かない製品
・ページ数によっては、丁合や綴じに手作業が入るため、中綴じに比べ納期が不安定
・本を綴じる際に、「綴じ代」として本の端から数ミリ開けるため、本を開いたとき中央まで見開きにくい
・綴じ代があるため、表紙にも折り目の跡がつきやすい
・綴じ代の分だけ印刷ができないため、1ページに対する印刷面が少なくなる
・クロス巻きをしていない平綴じの場合、針金の先端で怪我をする恐れがある
綴じ代
平綴じなど、製本するために必要な余白のこと。綴じられてしまう部分のため、印刷できない部分。
4-3 製本のページ数の目安とサンプル事例
用紙の厚みと平綴じのページ数について、おおよその目安を記載します。(表2)
針金の大きさを変えることで、300ページくらいまでの製本も可能です。会議資料や帳票、教科書などに使われています。
表2 平綴じのページ数の目安
※上質紙の場合
コラム:右綴じ・左綴じ・右開き・左開き
本を作るとき、右と左のどちらを綴じるか、一度は迷うかもしれません。また、印刷会社によっては「右開き」「左開き」という言葉を使うかもしれません。この右左の違いは、中の文章が縦書きか横書きかの違いにあります。
縦書きの場合、右から左にかけて文章を読み進めます。この場合、表紙正面に対して向かって右側が綴じられ、ページを右に繰っていくため、右綴じ・右開きになります。逆に横書きの場合、左から右に文章を読みます。表紙正面に対して向かって左側が綴じられ、ページを左に繰っていきます。左に繰っていくため、左綴じ・左開きになります。
しかし、中には横書きでも右綴じの本もあり、必ずしも縦書き・横書きだからと決まってはいません。伝えたいメッセージや表現方法によって、自由に選んでよいものです。ただ、製本する際には印刷の面付けも変わってくるため、印刷会社に確認してみましょう。
5.中綴じと平綴じの特性、比較表
一般的かつリーズナブルな製本方法、中綴じ・平綴じについて、特性を下記表にまとめてみます。(表3)
・強度・耐久度
中綴じは低く、長期保存には向きません。平綴じは強度・耐久度は高い傾向にあり、長期保存に向いています。
・ページ数
中綴じは比較的薄めの本で、ページの中央で綴じるため4ページ単位での製本になります。
平綴じは、針金を変えることで、薄め~厚めの本まで対応できます。また、2ページ単位で綴じられます。
・納期
中綴じが製本方法の中でも早い分類に属する一方、平綴じはページ数にもより、手作業も入るため時間がかかる場合もあります。クロス巻きなど加工が入る場合も追加で作業日数がかかります。
・価格
中綴じ・平綴じ共に他の製本方法より工程が簡素なため、価格は低めになっていますが、中綴じと平綴じだと平綴じのほうが若干割高になるかもしれません。詳しくは、印刷会社・製本会社に相談してみましょう。
比べてみると同じ簡易製本と呼ばれる2種類の製本ですが、使い分けができそうですね。ここでの比較はあくまで参考なので、どうしても作りたい製本の方法があれば、印刷会社に相談してみると良いでしょう。
表3 中綴じと平綴じの特徴比較表
※数値は目安です。用紙・ページ数・部数にもよるので要確認しましょう。
まとめ.製本の選び方
実は印刷会社が使う製本という言葉は意味が広く、綴じだけに限りません。
断ち(直線で切り形を整える)・折り(二つ折り、観音折など)・綴じ・抜き(直線以外の形に加工する)、その他の特殊加工含めてすべて「製本工程」になります。
製本に迷っている方は、作りたい本のページ数から考えてみることをおすすめします。製本には中綴じ、平綴じのほか、無線綴じ、糸かがり綴じもありますが、原稿のページ数によっては、できない製本方法もあるからです。次に、価格・納期・用紙の種類など、ご自身が大切にしたいと思う部分を基準に選んでみてください。
特に用紙の種類によっては、綴じられるページ数が変わったり、使い勝手も変わったりします。実際の製本イメージが湧かない場合は、印刷会社で実際の用紙を使って製本見本(束見本と呼びます)を作ることもできます。ぜひ、「こういう紙を使って、この製本がしたい」と印刷会社に希望を出してみてください。
製本は本の完成形につながる大切な部分です。わからないこと、不安に思うことがあれば、印刷会社に相談してみましょう。当サイト『紙ソムリエ』も印刷会社が運営しておりますので、印刷・製本に関するお悩みは何でも承ります。