「印刷物の黒色の発色をもっと良くしたい!」と思ったことはありませんか。
実は印刷における黒色にはいくつか種類があります。これらをよく理解することで印刷事故を防げるだけでなく、より完成度の高い印刷物を作ることができるでしょう。
この記事ではスミベタ・リッチブラック・4色ベタという3種類の黒色について、それぞれの特徴と使い分け、注意点などをご紹介いたします。
1.印刷の黒は一種類ではない?
具体的な用語の前に、少しだけインキの黒色についてご説明いたします。
1-1 インキはなぜ四色あるのか
一般的なカラー印刷では、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの4色のインキをかけ合わせてさまざまな色を表現しています。
色の三原色の原理上では、シアン・マゼンタ・イエローを100%ずつ混ぜると黒に近い色になります。しかしこれは完全な黒ではありませんので、きれいな黒を表現するためにはブラックのインキが必要です。
1-2 黒にCMYを活用できる
ブラックのインキはそのままでもきれいな黒ですが、CMYのインキを混ぜればより深みのある濃い黒色を作ることができます。
これを利用したのが後にご説明するリッチブラックです。
「スミ100%では、地の文と同じ濃さでちょっと物足りない…」「夜空や陰影、商品のカラー展開などで美しく黒を際立たせたい!」という方は、ぜひとも活用してみてください。
2. いろいろな黒色
スミベタ、リッチブラック、4色ベタについて詳しく説明していきます!
2-1 スミベタとは
K(ブラック)100%の黒色のことをスミベタと呼びます。
基本的な黒色で、印刷物の本文などは通常この色を使います。
2-2 リッチブラックとは
K100%にそれ以外の色を何%か足して作られた黒のことを、リッチブラックと呼びます。
スミベタと比べてつやのある濃い綺麗な黒になりますので、そのような特別な黒を表現したい時や、後述のスミベタの場合に起きる、ブラックオーバープリントによる印刷事故を防ぐために使用します。
リッチブラックの割合は「C40% M40% Y40% K100%」などが一般的です。
総インキ量(インキの合計値)が300%を超えると紙同士がくっついてしまったり、裏に移ってしまったりといった事故の原因になりますので注意が必要です。
2-3 4色ベタとは
4色ベタはCMYKのインキ全てを100%使用する究極のリッチベタです。
印刷における最も濃い黒を表現することができますが、総インキ量が多すぎるためインキが乾かず、事故の元となります。
基本的に4色ベタは、消えたりずれたりしては困るトンボや枠外の文字に使います。この場合の4色ベタはレジストレーションカラーと呼ばれます。
トンボがきちんとレジストレーションカラーに設定されているか、逆に文字などの黒がレジストレーションカラーになっていないかの確認が必要です。
3.用途によって黒色を使い分けよう
4色ベタは一般的にトンボや枠外の文字以外には使用しないため、使い分けるのは主にスミベタとリッチブラックになります。使い分け方や注意点をご紹介します。
3-1 実際どっちの黒を使ったらいい?
リッチブラックはつややかで濃い黒を表現することができますが、見当ズレが起きた際はとても見づらくなります。そのため基本的にはスミベタを使用します。
特に文字など細くて小さいオブジェクトにはスミベタが一番適しています。
スミベタは広範囲にベタ塗した際にピンホールという現象が発生しやすく、目立ちやすいです。
これは紙粉やインキのカスなどが紙にくっついた結果、そこだけインキが乗らず白く抜けてしまった状態です。
何色か重ねた色であればピンホールは多少目立たなくなりますので、広範囲ならリッチブラックのほうが向いていることがあります。
また、別のオブジェクトや写真などの上に、広い範囲のスミベタを置くと、印刷時に下の絵柄が透けてしまいます。
その場合はリッチブラックにするなどをして対処しなければいけません。詳しくはオーバープリントの記事をお読みください。
スミベタ・リッチブラックともに、適材適所といった感じです。上手に使い分けていきたいですね!
3-2 画面上では同じ黒なのに、出力すると違う…
黒がスミベタかリッチブラックかどうかは、画面上では分かりにくいです。
Adobe Illustrator上で「環境設定」→「ブラックのアピアランス」のメニューで「すべてのブラックを正確に表示」する設定を行うと、ほんの少しですが表示に差が出るため、画面上でも黒色の違いを確認することができます。
またPDFデータの場合は、Adobe Acrobat上で「印刷工程」→「出力プレビュー」の画面で、カーソルを乗せた部分の色の数値を確認できます。印刷データの入稿前にチェックすることをおすすめします。
スミベタとリッチブラックでは、印刷すると仕上がりにかなり違いがあります。
混在させてしまうと統一感のない見た目になってしまうことがありますので、注意しましょう。
3-3 その他、黒の注意点
RGBからCMYKに変換したオブジェクトは、黒い部分のCMYK値の合計が300%を大きく超えてしまうなど、適切でない数値になる可能性があります。
スミベタにするか、透けそうならリッチブラックに変更すると安心です。
また、どんな黒色が適しているか、リッチブラックのようなインキを多く重ねた色がきれいに印刷されるかどうかは、実際に出力する紙によっても変わります。コート紙と非コート紙や、厚い紙と薄い紙ではインキの吸収が違います。ですので、用紙によってインキの扱い方も変えないといけません。
インキの扱い方を画面上や一般的なプリンターなどで確認するのはどうしても難しいです。
心配な場合は色校正をとるか、印刷会社に問い合わせるのもおすすめです。
まとめ.黒色を理解してより良い印刷物を
黒色それぞれの違いをよく理解し、場合によってうまく使い分けしていくことが大切です。
まとめると以下のようになります。
・スミベタ
基本的な文字や細かい線にはスミベタが最適。
下に絵柄がある場合、ブラックオーバープリントによって柄が透けてしまう。ピンホールが目立ちやすい。
・リッチブラック
つややかな濃い黒色に仕上がり、ピンホールが目立ちにくい。
ブラックオーバープリントによる印刷事故を回避できる。
スミベタよりもインキが乾きにくく、特にCMYK合計300%以上のリッチブラックは印刷事故の元となる。
また、見当ズレが起きると視認性が低いので細い文字や線には不向き。
・4色ベタ
基本はトンボや枠外の文字のみに使う(レジストレーションカラー)
その他にも、紙の厚さや種類によっても黒色の扱い方は変わってきます。
「印刷で使う黒色の違いは理解できたけど、使い方が合っているのか分からない」「イメージ通りの黒色が出ない」という場合は、当サイト『紙ソムリエ』にお気軽にお問い合わせください。一緒にクオリティの高い印刷物を作っていきましょう!